
豆パンはいつ生まれたのか|「1940年・ロバパン10周年」の出どころと、北海道立図書館が2026年に出した「未解決」
北海道のパン売り場に、当たり前のように豆パンがある
北海道のスーパーでパンの棚を見ると、たいてい豆パンが置いてあります。ふんわりした生地に、甘く煮た豆が入っている。特別なパンという顔をしていない、日常のパンです。
いま道内で手に入る代表的なものを、2社ぶん並べてみます。
- ロバパン『特撰豆パン』:金時豆を練り込んだ生地に、北海道産の金時豆を100%使用して手包みしたもの。生地にもあんこが練り込まれています(ロバパン公式)
- 日糧製パン『道産米粉の豆パン(4)』:「北海道民になじみ深い"豆パン"」として、道産素材にこだわったミニサイズ4個入り(日糧製パン公式)
- 日糧製パン『しっとりダブル金時豆パン』:金時豆ペーストと、十勝産金時豆の甘納豆を合わせた「ダブル豆パン」(同)
ここで一つ気づくことがあります。同じ「豆パン」でも、入っている豆が「煮豆」と「甘納豆」で違うのです。どちらが正しい豆パンか、という決まりはありません。道民に「豆パンってどんなパン?」と聞くと、答えが二つに分かれるのはこのためです。
では、この豆パンはいつ、どこで生まれたのでしょうか。調べてみると、ここからが本題でした。
「1940年生まれ」の出どころは、製造元のプレスリリース1枚
豆パンの起源を検索すると、だいたい同じ話が出てきます。「1940年、ロバパンの10周年を記念して作られた」「北海道帝国大学農学部の意見を聞いて作った」——。
この話の出どころは、はっきりしています。ロバパン自身が出しているプレスリリースです。
『特撰豆パン』は1940年、ロバパンの10周年記念として作られた商品です。当時のお客様であった北海道帝国大学農学部の皆さんの意見を聞き作り上げました。
(株式会社ロバパン「ロングセラー商品『特撰豆パン』豆10%増量企画実施」2025年10月1日)
製造元が自社の商品について書いていることなので、軽い情報ではありません。ただし、これ以外に同じ話を書いている資料が見当たらない、というところから話が始まります。
北海道立図書館が15点の資料を当たって、それでも「未解決」だった
2026年1月、北海道立図書館が「北海道で食べられている豆パンの起源、歴史について知りたい」という調べものの相談に回答した記録が、国立国会図書館のレファレンス協同データベースで公開されています。相談した人も、ネット上の「1940年・ロバパン10周年・北海道帝国大学」という話に行き当たり、それが書かれた資料を探していました。
図書館の回答の要点は、こうです。ロバパンのサイトのプレスリリースには確かにそう書かれている。しかし、所蔵する関連資料に当たっても、それを裏づける資料は確認できなかった。
当たった資料は15点にのぼります。『北大百年史』『札幌市史』『さっぽろ文庫31 札幌食物誌』『北海道たべもの文化誌』『札幌人名事典』『日本ご当地パン大全』『パンの事典』——。北海道大学の歴史、札幌の歴史、食べものの歴史、パンの本。思いつく棚はひととおり見た、という顔ぶれです。
さらに国立国会図書館デジタルコレクションの全文検索で「パン」「豆」「ロバパン」といった言葉を入れても、豆パンの開発についての記述は出てきませんでした。1984年に出た『札幌の食いまむかし』には「札幌パン」という10ページほどの項目がありますが、そこにも豆パンは出てきません。
この相談は、いまも「未解決」のまま公開されています(レファレンス協同データベース/提供館:北海道立図書館/管理番号 北方26-0013)。
しかも、公式サイトの中で年が1年合わない
もう一つ、気になることがあります。
ロバパンの会社概要には、創業「昭和6年9月」と書かれています。西暦にすると1931年9月です。1931年に創業した会社の10周年は、1941年になります。
プレスリリースの「1940年、ロバパンの10周年記念」とは、1年ずれていることになります。
どちらが正しいのかは、外から見ている私たちには分かりません。数え方の違いなのかもしれないし、どちらかの年が言い回しなのかもしれない。ここでは、公式サイトの中で年が1年合っていないという事実だけを置いておきます。
「北海道発祥」とも言い切れない|石川県発祥説と、代用食の名残説
「豆パンは北海道のもの」という言い方も、よく見かけます。これも、慎重に扱ったほうがよさそうです。
北海道立図書館は回答の中で、北海道の暮らしを紹介する本から2つの説を引いたうえで、どちらにも「出典等は明らかではない」という趣旨の注記を付けています。
- 代用食の名残説:戦時中から北海道では豆やジャガイモを入れたパンが代用食として食べられていた歴史があり、金時豆入りのパンはその名残ではないかといわれている
- 石川県発祥説:豆パンについては石川県発祥とする説もあるので注意してほしい
図書館がわざわざ「注意を」と書いている以上、この記事でも「北海道発祥」とは書きません。実際、ロバパンのプレスリリースに書かれているのは「販売地域:北海道」であって、「北海道だけのパン」とは書かれていません。
発祥がはっきりしない北海道の食べものは、豆パンだけではありません。ザンギの発祥論争は説が2つあって決着がつかない話ですが、豆パンのほうは、唯一の説の裏づけがまだ見つかっていない、という一段手前の状態です。
分かっているのは、豆の方だ
由来はあいまいなままですが、豆については、はっきりした数字があります。
北海道庁がまとめた「北海道の畑作をめぐる情勢」(2025年9月)によると、北海道は国内最大の豆類産地で、小豆といんげんはその9割が北海道で生産されています。令和6年(2024年)産のいんげんで見ると、次のとおりです。
- 作付面積:北海道 5,270ha / 全国 5,650ha = 93.3%
- 生産量:北海道 5,380t / 全国 5,650t = 95.2%
金時豆は、このいんげんの一種です(※この数字は「いんげん」全体のものです。金時豆だけを取り出した北海道の割合は、この資料には載っていません)。
いつ誰が作り始めたかは分からない。けれど、中に入っている豆が北海道のものであることは、統計で確かめられる。豆パンという食べものは、ちょうどそういう位置にあります。
なお、同じ「甘い豆」でも、赤飯に入れる甘納豆のほうは、考案した人も広まった経緯も記録に残っています。片方は記録があって、片方は無い。読み比べるとおもしろいので、あわせてどうぞ。
あわせて読みたい北海道の赤飯はなぜ甘納豆?考案した南部明子さんと戦後に全道へ広まった経緯【小豆派vs甘納豆派】
車で買いに行くなら|どこでも買えるのが豆パンの強み
観光地に行かないと買えないお土産とは違って、豆パンは道内のスーパーやドラッグストアで普通に売っています。ロバパンの会社概要の「主な取引先」には、セブン&アイ、イオン北海道、アークス、コープさっぽろといった名前が並んでいて、道内を走っていれば、買える場所に困ることはまずありません。旅行で来た方は、観光の途中で寄ったスーパーのパン売り場をのぞいてみてください。
ドライブのお供にするなら、日糧製パンの『道産米粉の豆パン(4)』のようなミニサイズ4個入りが扱いやすいです。1個が小さいので、休憩のたびに1つ、運転を交代するタイミングで1つ、という食べ方ができます。食べるのは車を停めてからにしましょう。
ロバパンの『特撰豆パン』は、生地にもあんこが練り込まれていて、豆が二重になっています。道民でも意外と知らないところなので、棚で見かけたら断面を見ながら食べてみてください。コンビニ派の方はセイコーマートのおすすめ商品もあわせてどうぞ。
あわせて読みたい札幌で愛される「どんぐり」パン屋の魅力とは?本社・人気商品・歴史を徹底解説
よくある質問
Q. 豆パンは北海道発祥ですか?
言い切れません。北海道立図書館の調査記録には「石川県発祥とする説もある」という注意書きがあり、北海道発祥を裏づける資料も見つかっていません。はっきりしているのは、北海道のパン売り場で長く定番になっている、ということまでです。
Q. 豆パンの豆は、煮豆ですか?甘納豆ですか?
商品によって違います。ロバパンの『特撰豆パン』は北海道産の金時豆を手包みしたもの、日糧製パンの『しっとりダブル金時豆パン』は金時豆ペーストと十勝産金時豆の甘納豆を使ったものです。どちらも製造元の公式の説明に書かれています。
Q. 「1940年に生まれた」という話は間違いなのですか?
間違いとは言えません。製造元のロバパンが公式に説明している内容です。ただ、それを裏づける別の資料が、北海道立図書館の2026年の調査では見つかっていません。また、ロバパンの創業は昭和6年(1931年)9月なので、「1940年」と「10周年」は1年合いません。
Q. 道外でも買えますか?
ロバパンの『特撰豆パン』の販売地域は、公式のプレスリリースで「北海道」とされています。道外の物産展などで扱われることがあるかどうかは確認できていません。確実なのは、北海道に来たときにスーパーのパン売り場で買うことです。
出典:レファレンス協同データベース(提供館:北海道立図書館・管理番号 北方26-0013)/株式会社ロバパン プレスリリース(2025年10月1日)/ロバパン 会社概要/日糧製パン 商品情報・同(しっとりダブル金時豆パンの掲載ページ)/北海道農政部「北海道の畑作をめぐる情勢」令和7年9月(2026年9月時点)。
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