
三平汁と石狩鍋の違いは「塩か味噌か」ではなかった|農水省が線を引いたのは魚の方・檜山には「味噌三平」もある
三平汁と石狩鍋、違いを説明できますか
どちらも北海道の郷土料理で、どちらもサケと野菜を煮た汁もの。道民でも「違いは?」と聞かれると、少し詰まります。
いちばんよく聞く答えは、「三平汁は塩味、石狩鍋は味噌味」でしょう。ところが、農林水産省が郷土料理をまとめた「うちの郷土料理」を読むと、この答えでは説明がつかないことが分かります。三平汁にも、味噌で仕立てるものがあるからです。
では、国はどこで線を引いているのか。答えは味ではなく、魚の方でした。
農水省の答えは「味」ではなく「魚」だった
農林水産省は三平汁の説明の中で、石狩鍋との違いをこう書いています。
同じサケを食材とする「石狩鍋」と一緒にされることがあるが、味噌仕立てで生サケを使う「石狩鍋」とは異なり、「三平汁」は主に塩漬けされたサケを使うことが特徴。
(農林水産省「うちの郷土料理」三平汁)
石狩鍋は生のサケ。三平汁は塩漬けのサケ。これが国の説明する違いです。
石狩鍋の側の説明を読むと、この線引きがよく分かります。石狩鍋は、石狩川の河口にある石狩町の漁師料理とされ、大漁を祝うときにとれたてのサケのぶつ切りやあらを味噌汁の鍋に入れて食べていた、といわれています。目の前でサケが獲れる場所の料理なので、生の魚を使うわけです。
一方の三平汁は、塩漬けや糠漬けにして保存しておいた魚を使います。サケが獲れない季節にも、海から遠い土地でも作れる。だから農水省は、三平汁の伝承地域を「道内全域」、石狩鍋を「石狩地方」と書き分けています。
「三平汁=塩味」が通用しない理由|檜山には「味噌三平」がある
三平汁の基本は、たしかに塩です。農水省は「塩漬けにして保存された魚を野菜とともに煮こみ、その魚の塩分だけで味を付ける」という趣旨の説明をしています。
ただし同じページに、味付けは味噌、醤油、酒粕などさまざまある、とも書かれています。地域による違いも具体的です。
- 道央・道東:塩ザケを使う
- 道北:塩ダラを使うこともある
- 檜山地方(道南):塩で味付けしスケソウダラを使う「塩三平」と、味噌で味付けし塩ザケを使う「味噌三平」がある
農林水産省の北海道農政事務所も、三平汁について「魚は、にしんの他、鮭やたら、はたはたなどを使うこともあるし、味付けはみそ仕立てにすることも」と紹介しています。
つまり、北海道の中で答えが違うのが三平汁です。「三平汁は塩味でしょ」と言うと、道南の人には首をかしげられるかもしれません。味で線を引けない以上、石狩鍋との違いを「塩か味噌か」で説明するのは無理がある、ということになります。
道南、とくに檜山の食文化がほかの地域と少し違うという話は、茶碗蒸しにも出てきます。
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塩漬けの魚が、そのまま味つけになる
三平汁のおもしろいところは、味つけの主役が調味料ではなく魚だという点です。
農水省の説明では、昆布で出汁をとったあと、魚の塩引きや糠漬けを野菜と一緒に煮ます。魚の頭や骨も一緒に煮込むと旨味が増す、とも書かれています。北海道農政事務所が紹介しているレシピは塩出しした「すしにしん」を使うもので、そこには次の一文があります。
すしにしんから出る塩分があるので、加える塩の量は味をみながら調整する。
(農林水産省 北海道農政事務所「三平汁」)
先に魚が塩を持っているので、あとから足す塩は「調整」でしかない。冷蔵庫のない時代に、魚を塩や糠で保存していた。その保存食が、そのまま一品の料理になっているわけです。農水省によれば、三平汁は200年以上も前から食べられていたといわれ、江戸時代後期の見聞録『東遊記』にも記録が残っているそうです。
具はじゃがいも、大根、人参など。農水省のレシピ(4人分)は、サケのあら半尾分にじゃがいも160g、大根80g、人参、ごぼう、長ねぎ、こんにゃくなどを昆布だし3カップで煮るものです。北海道の開拓期の知恵が残る料理としては、じゃがいもを餅の代わりにした「いももち」も同じ系譜にあります。
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名前の由来は2つあって、片方はレシピの中に残っている
「三平汁」という名前の由来について、農水省は諸説あるとしたうえで、2つの説を紹介しています。
- 人の名前説:松前藩の藩主が狩りに出た際、斉藤三平という漁師の家で、あり合わせのもので煮こんだ汁を食べて大変気に入ったため
- 器の名前説:有田焼の「三平皿」という深皿に盛ることから
どちらが正しいかは決まっていません。ただ、器の名前説のほうは、思わぬところに痕跡が残っています。農水省が載せている三平汁のレシピは、最後の手順がこう結ばれているのです。
三平皿に盛り、七味唐辛子をそえる。
由来の一説が、レシピの最後の一行に化石のように残っている。お椀ではなく、深皿に盛る汁もの。家で作るときは、少し深めの皿によそってみると、それらしくなります。
石狩鍋は「場所の料理」、三平汁は「家の料理」
農水省の2つのページを並べると、違いは次のように整理できます。
| 三平汁 | 石狩鍋 | |
|---|---|---|
| 伝承地域 | 道内全域 | 石狩地方 |
| 魚 | 塩漬け・糠漬けのサケ、タラ、ニシンなど | とれたて(生)のサケ |
| 味 | 魚の塩分が土台。味噌・醤油・酒粕もある | 味噌仕立て |
| 広まり方 | 200年以上前から食べられていたといわれる | 昭和20年代ごろ、観光客に振る舞って全国へ |
| 記念日 | なし | 9月15日「石狩鍋記念日」 |
石狩鍋が全国に知られたきっかけは、昭和20年代ごろだといわれています。石狩のサケの地びき網漁が注目を集め、漁を待つ観光客に振る舞ったところ評判になった。2007年には「石狩鍋復活プロジェクト」が発足し、毎年9月15日が「石狩鍋記念日」になりました。9と15で「食いに行こう」「食いごろ」の語呂合わせで、石狩でサケが獲れる時期でもあります。
石狩鍋は、サケが揚がるその場所で生まれた「場所の料理」。三平汁は、保存した魚で道内どこでも作られてきた「家の料理」。そう考えると、似ている2つの汁ものの性格の違いが見えてきます。
なお、三平汁を食べる季節について、農水省の本省のページは「寒い冬の時期に食べられることが多い、北海道の冬の定番料理」としていますが、北海道農政事務所のページは「季節の野菜や魚を使って、一年を通して食される汁物」と書いています。冬の定番であり、通年の家庭料理でもある、というのが実際のところのようです。
車で出かけるなら|石狩鍋の町は札幌のすぐ隣
石狩鍋のふるさと・石狩市は、札幌の北隣です。サケの季節である秋に、石狩川の河口方面へ車を走らせると、「生のサケの料理」が生まれた土地の空気が分かります。石狩方面の立ち寄り先は、こちらにまとめています。
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三平汁のほうは「家の料理」なので、決まった聖地はありません。旅先の食堂や宿の朝食で出会えたら、魚が何か、味が塩か味噌かを見てみてください。その土地の三平汁が分かります。
よくある質問
Q. 三平汁と石狩鍋の一番の違いは何ですか?
農林水産省の説明では、魚の違いです。石狩鍋は味噌仕立てで生のサケを使い、三平汁は主に塩漬けされたサケを使います。三平汁はサケのほか、タラやニシンでも作られます。
Q. 三平汁は塩味と決まっているのですか?
決まっていません。塩漬けの魚の塩分で味を付けるのが基本ですが、農水省は味噌、醤油、酒粕などさまざまな味付けがあるとしており、道南の檜山地方には味噌で仕立てる「味噌三平」があります。
Q. 「三平」とは何のことですか?
諸説あります。松前藩の藩主に汁をふるまった漁師・斉藤三平の名前からという説と、盛りつける有田焼の深皿「三平皿」からという説が、農水省のページで紹介されています。
Q. 三平汁は冬の料理ですか?
冬の定番料理とされる一方、北海道農政事務所は「一年を通して食される汁物」と紹介しています。保存した魚と季節の野菜で作れるので、季節を選ばない料理です。
出典:農林水産省「うちの郷土料理」三平汁 北海道/同 石狩鍋 北海道/農林水産省 北海道農政事務所「三平汁」(2026年9月時点)。
※ この記事について
掲載している内容は執筆時点(2026年9月)に、農林水産省の公開情報で確認したものです。郷土料理の作り方や味付けは、家庭や地域によって違いがあります。公開されている内容は変わることがあるので、お出かけの際は立ち寄り先の公式サイトで最新情報を確認してください。




